職場の問題を「本人の問題」で終わらせない――行動科学から考える組織のパフォーマンス

はじめに
組織では、様々なパフォーマンスに関わる課題が起こる。
「指示をしないと動いてくれない」、
「研修をしても現場に定着しない」、
「優秀なプレイヤーだったのに、リーダーになるとうまくいかない」。
経営者や組織のリーダーであれば、
このような課題に直面したことがあるのではないだろうか。
こうしたとき、私たちはつい「本人のやる気が足りない」、
「意識が低い」、「もっと主体性をもってほしい」など、
問題の原因を個人に求めてしまうことがある。
しかし、問題の原因を本人の「やる気」や「意識」だけに求めてしまうと、
パフォーマンスに影響している他の要因を見落とし、
組織として何を変えればよいのかが見えなくなることがある。
本稿では、このような課題について、
行動科学、特に応用行動分析学(Applied Behavior Analysis:以下、ABA)と
組織行動マネジメント(Organizational Behavior Management:以下、OBM)の
視点から考えてみたい。
人の問題を「行動」と「環境」から考える
ABAは、人の行動と環境との関係を科学的に明らかにし、
その知見を社会的に重要な課題の改善に活用する科学である。
教育、医療、リハビリテーション、スポーツなど、
様々な領域で研究と実践が行われてきた。
この考え方を組織のパフォーマンス改善に応用する分野がOBMである。
OBMでは、問題の原因を個人の「やる気」や「意識」だけに求めるのではなく、
必要なパフォーマンスと、それに影響している環境を分析する。
また、個人だけでなく、仕事の流れや部署間の連携など、
組織を「システム」として捉える。
つまり、個人に改善を求めるだけでなく、
成果につながるパフォーマンスと、
それを支える環境や仕組みを考えるのである。
OBMに関する研究や実践は、
専門誌Journal of Organizational Behavior Managementなどで
長年にわたって報告されている。
「成果」だけでなく「パフォーマンス」を見る
ここでいう「パフォーマンス」とは、
組織にとって重要な成果につながる行動を指す。
例えば、企業を訪問する、経営者から困りごとを聞き取る、
提案書を作成するといった行動の結果、
新しい取引先が増えたとする。
この場合、これらの行動がパフォーマンスであり、
新規契約や売上などが「成果」である。
経営では当然、成果が重要である。
しかし、「売上をもっと上げよう」と言うだけでは、
従業員が何を変えればよいのかは分からない。
だからこそ、成果だけでなく、
それを生み出す具体的なパフォーマンスを見る必要がある。
「もっと頑張れ」と求めるのか、
成果につながるパフォーマンスを特定し、それを支える仕組みを考えるのか。
ここには大きな違いがある。
パフォーマンス改善の基本的なステップ
ABAやOBMに基づくパフォーマンス改善では、
組織の課題や人材、時間、予算などを踏まえて改善策を検討する。
そのため、取り組みは組織によって異なるが、
基本的なステップには共通する部分がある。
ステップ1:改善したいパフォーマンスを特定する
ステップ2:現状と原因を分析する
ステップ3:改善策を計画する
ステップ4:改善策を実施する
ステップ5:結果を評価し、必要に応じて改善する
ステップ1:何を変えたいのかを具体的にする
例えば、「営業の売上が上がらない」という問題だけでは、
何を変えればよいのか分からない。
新規顧客への訪問回数が少ないのか、
顧客の困りごとを十分に聞き取れていないのか、
提案までに時間がかかっているのか。
同じ問題でも、改善すべきパフォーマンスは組織によって異なる。
まず、何を変える必要があるのかを具体的にする。
ステップ2:現状と原因を分析する
改善したいパフォーマンスを特定したら、
その頻度、質、タイミング、必要な時間やコストなどを測定し、
目標と現状とのギャップを確認する。
そして、なぜそのギャップが生じているのかを分析する。
原因の見立てを間違えれば、
改善策を実施しても期待した効果が得られない可能性がある。
ステップ3・4・5:計画、実施、評価
分析結果に基づいて改善策を計画、実施し、
その後もパフォーマンスを測定して効果を確認する。
期待した改善がみられなければ、原因についての仮説や改善策を見直す。
また、一時的な改善だけでなく、
改善したパフォーマンスが維持される仕組みについても検討する。
「やる気がない」で分析を終わらせない
ここで特に重要なのが、「原因をどのように考えるか」である。
例えば、会議で自発的に提案をしない従業員を見て、
「やる気がないから提案しない」と考えたとする。
しかし、「やる気がない」と判断した理由が
「提案しないから」であれば、
「提案しないから、やる気がない」→
「やる気がないから、提案しない」となっている。
これは、説明したい事象を別の言葉に置き換え、
それを再び原因として用いる「循環論法」の一例である。
問題なのは、「やる気」という言葉を使うことではなく、
「やる気がない」という説明で分析を終えてしまうことである。
それでは、組織が変えることのできる要因を見落としてしまう可能性がある。
では、何を見ればよいのか
重要なのは、パフォーマンスと環境との関係を見ることである。
人のパフォーマンスは、知識、スキル、経験だけでなく、
仕事を取り巻く環境からも影響を受ける。
先ほどの例であれば、
何について提案することが期待されているのか、
必要な情報は与えられているか、
提案する機会はあるかを確認する。
さらに、提案した後に何が起こっているかも重要である。
提案が認められたり、実際に採用されたりすれば、
今後も提案する可能性は高まるかもしれない。
一方、提案しても無視される、すぐに否定される、
提案した人にだけ追加の仕事が増えるとしたら、
「もっと主体性をもって」と求めるだけで改善するだろうか。
ここでの目的は、すべてを組織の責任にすることではない。
パフォーマンスに影響している要因を見つけ、
変えることのできるものを変えることである。
パフォーマンスを取り巻く仕組みを見る
こうした分析の枠組みの一つが、
Human Performance System(HPS; Rummler & Brache, 2012)である。
HPSでは、本人の能力や「やる気」だけでなく、
パフォーマーを取り巻く環境を含めて考える。
例えば、次のような点を確認する。
期待されていることは明確か。
何を、いつまでに、どの程度行えばよいのかが明確になっているか。
また、期待されているパフォーマンスは実現可能なものか。
必要なものはそろっているか。
必要な情報、時間、人員、設備、業務を支援するツールなどがあるか。また、パフォーマンスを妨げる要因はないか。
必要な知識やスキルがあるか。
「やらない」のではなく、
「やり方が分からない」、あるいは、頭では分かっていても、
それを実行するためのスキルが身についていないのではないだろうか。
パフォーマンスの後に何が起きているか。
望ましいパフォーマンスを行ったとき、どのような結果が生じているか。
フィードバックはあるか。
何が良く、何を改善する必要があるのかを本人が知ることができているか。
このように確認すると、「本人のやる気がない」と思っていた問題が、
「基準が曖昧だった」、「必要な情報がなかった」、
「良い仕事をしても何も変わらなかった」など、
より具体的な問題として見えてくることがある。
問題が具体的になれば、改善策も具体的に考えることができる。
おわりに
組織で問題が起こったとき、「本人のやる気がない」、
「意識が低い」、「もっと主体性をもってほしい」と
原因を個人に求めるだけでは、組織として何を変えればよいのかは分からない。
「なぜ、この人はやらないのだろう」だけでなく、
「必要な条件はそろっているだろうか」、
「そのパフォーマンスの後に何が起こっているだろうか」と問い直してみる。
そうすることで、「人の問題」に見えていたものが、
改善可能な仕事の仕組みの問題として見えてくることがある。
人に「もっと頑張ってもらう」ことだけに改善を求めるのではなく、
望ましいパフォーマンスが生まれ、続いていく環境や仕組みをつくる。
それが、行動科学から組織のパフォーマンスを考える重要な視点である。




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