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「自分で考えて動ける職員」はどう育てる?(PART 2)― 弁別訓練から、現場での実践と維持まで ―

3 分前
読了時間: 8分

前回のブログでは、単に「自分で考えて行動する」だけでなく、

状況の違いを見分け、その状況に応じた

適切な行動を選択できることの重要性について書きました。


これは、福祉・医療・教育などのヒューマンサービス組織をはじめ、

さまざまな組織で求められるスキルです。


前回紹介した、軍事組織における

Mission Command(ミッション・コマンド)にも、

共通する考え方があります。

現場の隊員や指揮官が、上位者からの細かな指示を待つのではなく、

任務や指揮官の意図を踏まえ、

その場の状況に応じて判断・行動することが求められます。


では、そのようなスキルをどのように教えればよいのでしょうか。


そのカギの一つが、行動科学における「弁別訓練」です。


弁別訓練とは何か


弁別訓練(discrimination training)とは、

「ある刺激が存在するときには反応を強化または弱化し、

別の刺激が存在するときには、

その反応を消去または回復させる手続き」です

Malott & Kohler, 2021, p. 268)。


少し専門的な定義ですが、

強化を用いた弁別訓練について簡単に言えば、

ある状況では特定の行動を強化し、

別の状況ではその行動を強化しないことです。


ここでいう「強化(reinforcement)」は、

一般的な意味での「褒めること」や「励ますこと」とは異なります。


行動科学では、行動の後に生じた結果によって、

その行動が将来起こる頻度が増えることを強化と呼びます。


たとえば、ある職員が自分で考えて行動した結果、上司から称賛され、

その後も同じように自ら判断して行動することが増えたとします。

この場合、上司の称賛は、その職員の行動を強化したと考えられます。


ただし、弁別訓練では、単に行動を強化するだけではありません

どのような状況でその行動を強化し、

どのような状況では強化しないのかを区別して訓練することが重要です。


例:「子どもを手伝う」という行動を教える


ヒューマンサービス組織で、

子どもが新しいスキルを学んでいる場面を考えてみましょう。


職員には、子どもの様子を観察し、

必要に応じて手助けすることが求められます。


しかし、いつでも手伝えばよいわけではありません

子どもが援助を必要としているときには、適切な手助けが必要です。

一方、子どもが自力で取り組める状況で職員がすぐに手を出してしまうと、

子どもが自分で取り組む機会を減らしてしまうかもしれません。


そこで、指導者は、職員が手伝うべき状況と、

手伝わずに見守るべき状況を明確にします。


一見すると簡単な判断のようですが、

実際には、子どもの支援目標や具体的な支援計画、

現在のスキル、そのときの行動や周囲の状況などを

総合的に考慮する必要があります。


そのため、指導者がこうした判断を効果的に教えることも、

職員が実際の支援場面で適切に判断・行動することも、

決して簡単ではありません。


だからこそ、どのような状況で、

どのような行動が求められるのかを具体的にし、

それぞれの状況に応じた行動を訓練することが重要です。


そして、手伝うべき状況で

職員が適切な援助を行った場合には、その行動を強化します。


反対に、手伝うべきではない状況で

職員が不必要な援助を行った場合には、その行動を強化しません。


このような訓練を繰り返すことで、

職員は、練習した状況において、いつ手伝い、

いつ見守るべきかを区別して行動できるようになります。


しかし、これだけでは十分ではありません。


練習していない状況でも行動できるようにする


職員が訓練で練習した状況では適切に行動できるようになったとしても、

普段の支援場面で、練習していない新しい状況に直面したらどうでしょうか


子どもの行動や状態、周囲の環境は、その都度異なります。


練習した状況とまったく同じ場面が、

日常の支援で繰り返されるとは限りません。


そのため、訓練では、手伝うべき状況と手伝うべきではない状況について、

それぞれ複数の例を用いることが重要です。


たとえば、異なる課題、支援場所、子どもの反応、

援助の必要性などを組み合わせ、さまざまな状況で練習します。


このように複数の例を用いて訓練することは、

訓練していない状況への行動の般化を促す方法の一つです


ただし、単に例を増やせば、必ず般化するわけではありません。

職員が実際に未訓練の状況でも適切に行動できるかを

確認する必要があります。


このように、訓練で身につけたスキルを

実際の職場でも発揮できるようにすること

訓練の転移(transfer of training)と呼びます

Malott & Kohler, 2021, p. 427)。


では、さまざまな状況で自ら判断し、

適切に行動できるようになれば、人材育成は完了なのでしょうか。


実は、そうではありません。


身につけたスキルが、使われ続けるとは限らない


訓練で身につけたスキルを

実際の職場でも発揮できるようになったとしても、

その行動が継続するとは限りません


自分で状況を分析し、判断して行動することには、

手間や労力がかかります。


また、判断を間違えた場合に叱責されたり、

責任を問われたりする環境では、

職員は自ら判断することを避けるようになるかもしれません。


たとえば、

「上司の指示を待とう」

「誰かが判断してから、それに従おう」

といった行動が増える可能性があります。


この場合、職員は必要なスキルを身につけていないのでしょうか。


必ずしもそうではありません。


スキルを身につけていることと、

そのスキルを実際の職場で使い続けることは、別の問題です。

そして、このような課題は様々な組織でみられます。


だからこそ、訓練だけでなく、

訓練後のマネジメントも重要になります。


職員の行動を支えるマネジメント


職員が身につけたスキルを使い続けられるようにするためには、

管理者が、実際の職場でその行動が生じているかを

定期的に確認する必要があります。


そして、適切な行動が見られた場合には、

その行動について具体的なフィードバックを行うなど、

行動を支える結果を提示します。


一方、適切な行動が生じていない場合には、

単に「もっと自分で考えて行動してください」と曖昧な支持を出すのではなく、

まず、その理由を分析する必要があります。


たとえば、次のような可能性が考えられます:

訓練で身につけたスキルが、まだ十分に流暢ではないのか。

他の業務や行動が妨げとなり、状況を判断したり、

必要な行動を実行できないのか。

自ら判断して行動した結果、叱責されることが多いのか。

上司の指示を待つ方が、職員にとって望ましい結果につながっていないか。


こうした行動と環境の関係を客観的に分析し、

必要に応じて訓練や職場環境を改善していくことが重要です。


そして、ここでもう一つ考えなければならないことがあります。


それは、管理者自身の行動を、

誰が、どのように支えるのかという問題です。


管理者が日々の業務に追われ、

職員の育成に十分な時間を確保できなければ、

こうした取り組みは継続しないかもしれません。


また、すべての管理者が、効果的な訓練やマネジメントを

実施するために必要なスキルを、すでに身につけているとは限りません。

そのため、管理者自身にも、職員の行動を観察・分析し、

適切なフィードバックを行うための訓練や支援が必要です。


したがって、組織には、管理者が職員の育成に取り組めるよう、

必要な時間などの資源を確保するだけでなく、

管理者自身のスキル習得と、その後の実践を支える仕組みも求められます


「自分で考えて動ける職員を育てたい」


そのためには、単に主体性や

判断力の重要性を伝えるだけでは十分ではありません


まず、どのような状況で、

どのような行動をとれるようになってほしいのかを明確にする。


次に、弁別訓練などを通じて、

状況に応じた適切な行動を教える。


さらに、さまざまな例を用いて訓練し、

実際の職場でもそのスキルを発揮できるようにする。


そして、身につけたスキルが継続して使われるよう、

行動を支える組織環境を整える。


これらは、職員個人の努力だけで実現できるものではありません。


そして、この考え方はヒューマンサービス組織に限りません。


前回紹介したMission Commandのように、

軍事組織でも、任務や指揮官の意図を踏まえながら、

現場の状況に応じて適切に判断・行動することが求められます。


そのためには、さまざまな状況で適切な行動を選択できるように

訓練するだけでなく、実際の任務でも、

そのスキルを発揮し続けられる環境が必要です。


これは、企業や教育機関など、さまざまな組織・集団にも共通する課題です。


自分で考えて動ける人材を育てることは、

そのような行動が生まれ、続く組織をつくることでもあるのです。


そして、そのためには、現場の経験や個人の主観だけに頼るのではなく、

人がどのように新しい行動やスキルを獲得し、

それをさまざまな状況で発揮・維持するのかを研究してきた

行動科学の知見が役立ちます。


現場の経験と行動科学の知見を組み合わせることで、

人材育成と、それを支える組織の仕組みづくりに、

より効果的・効率的に取り組むことができます。


行動ソリューションズでは、

応用行動分析学(ABA)と組織行動マネジメント(OBM)を活用し、

個人のパフォーマンス向上から、

それを支える組織の仕組みづくりまでを支援しています。


行動分析学の博士号を持つ代表が、

少数のクライアントに限定して、一つひとつの組織と丁寧に向き合い、

課題の分析から改善策の検討、実施支援、

効果の評価まで、一貫して伴走します。

 
 
 

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