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「本人に頑張ってもらう」だけでは、なぜ組織は変わらないのか ― TPSから考える、人のパフォーマンスを支える仕組み ―

9月4日
読了時間: 8分

病院、発達支援施設、児童養護施設、学校などの

ヒューマンサービス組織では、

人のパフォーマンスに関するさまざまな課題が起こります。


  • 職員の離職が続く

  • 優秀なプレイヤーが、なかなかリーダーに育たない

  • 研修で教えたことが現場に定着しない

  • 過度な負担によって、職員が働き続けることが難しくなる


こうした問題が起きたとき、

私たちはその原因を「人」に求めてしまいがちです。


「やる気が足りない」

「我慢が足りない」

「研修で教えたのに実践していない」

「リーダーとしての自覚が足りない」


しかし、本当に個人だけの問題なのでしょうか。


「研修したから、できるはず」という前提


組織で行われているパフォーマンス改善の取り組みを見ると、

個人を対象としたものが少なくありません。


例えば、プレイヤーをリーダーへ育てるために、

リーダーシップ研修を実施するとします。


研修では、


  • 部下との面談方法

  • フィードバックの方法

  • 部下の育成方法


などを教えるかもしれません。


もちろん、研修は重要です。


しかし、

「研修で教えた」=「職場で実践できる」

ではありません。


行動分析学では、言葉で説明できること、

つまり「知っていること」と、実際に「できること」を

同じ行動とは考えません。


研修を受けて、

「効果的なフィードバックの方法を説明してください」

という質問に正しく答えられるようになったとしても、

実際の職場で部下に効果的なフィードバックができるとは限らないのです。


さらに、研修によって実践するためのスキルを獲得できたとしても、

「できる」=「続ける」

でもありません。


ここに、個人だけではなく組織の仕組みを見る必要があります。


なぜ、最初はやっていたのに、いつの間にかなくなるのか


例えば、研修を受けたリーダーに、

「週に1回、30分間、部下とミーティングを行い、

フィードバックをしてください」

と伝えたとします。


研修直後は、実施するかもしれません。


1週間。

2週間。

1か月。


しかし、気がつけば、いつの間にか行われなくなっている。


こうしたことは、組織では決して珍しくないのではないでしょうか。


そこで、

「やっぱり本人の意識が低い」

「リーダーとしての自覚が足りない」

と結論づけることもできます。


しかし、別の見方もできます。


その行動を続けられる仕組みが、

そもそも組織の中につくられていたのでしょうか。


人ではなく「システム」を見る


Dale Brethower(1972)は、

組織におけるパフォーマンスを

システムとして捉えるためのモデルとして、

Total Performance System(TPS)を提唱しました。


私自身、2020年8月に日本行動分析学会で企画した

実践家の育成を考える枠組みの一つとしてTPSについてお話ししました。


図:Total Performance System(TPS; Brethower, 1972をもとに筆者が翻訳・作成)
図:Total Performance System(TPS; Brethower, 1972をもとに筆者が翻訳・作成)

実践家を育てるうえでも、研修を提供して

「本人に頑張ってもらう」だけでは十分ではありません。


学んだことを実践し、

そのパフォーマンスを維持できる環境が、

組織の中につくられているか。


TPSは、こうした問いを考えるうえでも役立つモデルです。


TPSでは、パフォーマンスを個人だけの問題として見るのではなく、

複数の要素が関係する一つのシステムとして捉えます。


主な要素には、

  • インプット(Inputs)

  • プロセスシステム(Processing System)

  • アウトプット(Outputs)

  • プロセスシステム・フィードバック(Processing System Feedback)

  • 受益システム(Receiving System)

  • 受益システム・フィードバック(Receiving System Feedback)

があります。


言葉だけを見ると、少し難しく感じるかもしれません。


そこで、先ほどの「リーダーが部下を育成する」という例で考えてみましょう。


リーダーが指導を続けるには、何が必要なのか


この例では、部下への指導を行うリーダーを

「プロセスシステム」として考えます。


そして、リーダーの指導を受ける部下や、

その結果として恩恵を受ける組織、

さらには組織からサービスを受けるクライアントなどが、

「受益システム」に含まれます。


リーダーは、こうした受益者に対して、

  • 定期的なミーティング

  • フィードバック

  • 指導

  • そして、それらを通じて育成された部下

といったアウトプットを生み出します。


しかし、リーダーに、

「毎週、部下と面談してください」

と言うだけでは十分ではありません。


そのためには、必要な「インプット」があるからです。

例えば、

  • 時間

  • 場所

  • 必要な情報

  • 指導方法に関する知識やスキル

  • 指導に使用できるツール

などです。


毎日のように通常業務だけで勤務時間を超え、

残業しているリーダーに、

「さらに週30分、部下を指導してください」

と要求したらどうでしょうか。


本人にどれだけやる気があっても、

継続することは難しいかもしれません。

この場合、必要なのは、

「もっとリーダーとしての自覚を持ってください」

と伝えることではないでしょう。


そのパフォーマンスを可能にするための環境が、

十分に整っているのかを見直すことが必要です。


「やってください」だけでは、行動は続かない


さらに、リーダーが実際に何をしているのかを測定し、

フィードバックする仕組み

(プロセスフィードバック)も重要です。


組織が

「週1回、30分のミーティングを行う」

という基準を設定したのであれば、

それが実際に行われているのかを確認できます。


しかし、回数だけを増やしても意味がありません。

30分間、部下と同じ部屋にいて話をすれば、

良い指導になるわけではないからです。


そのため、必要に応じて「指導の質」についても

見る必要があります。


例えば、

  • 部下に対して適切な質問を行っているか

  • 部下の話を聞いているか

  • 具体的な行動についてフィードバックしているか

  • 望ましい行動についてもフィードバックしているか

  • 部下の成長に必要な具体的な支援につなげているか


こうした実際のパフォーマンスを測定し、

その情報をリーダーへ返す。


うまくできていることがあれば、それを具体的に伝える。

改善が必要であれば、どのように改善できるのかを一緒に考える。

そして、目標を達成したのであれば、その成果を認める。


組織から「やってください」と言われて

実行しても、実行しなくても何も変わらない。

そのような環境で、望ましい行動が長期的に続くことを、

本人の努力だけに期待するのは難しいでしょう。


指導を「受ける側」からの情報も必要


もう一つ重要なのが、

受益システムからのフィードバックです。


リーダー自身は、

「良い指導ができている」

と思っているかもしれません。


しかし、指導を受けている部下はどうでしょうか。


「具体的で分かりやすかった」

「以前より仕事がしやすくなった

「困ったときに相談しやすくなった」

と感じているかもしれません。


反対に、

「何を改善すればよいのか分からない」

「話を聞いてもらえない」

「ミーティング自体が負担になっている」

と感じている可能性もあります。


アンケートや面談などを通じて、

指導を受ける側から情報を得ることも、

指導の質を改善するための重要な材料になります。


そして最終的には、


指導を受けた部下のパフォーマンスが、

本当に改善しているのか

を見る必要があります。


ミーティングを実施すること自体が目的ではないからです。


「人を変える」前に、「仕組み」を見る


TPSから見えてくるのは、とてもシンプルなことです。


人に、

「もっと頑張ってください」

「研修で教えたことを実践してください」

「リーダーなのだから部下を育ててください」

と求めるだけでは、

組織のパフォーマンスは

持続的には変わらないかもしれないということです。


必要な資源はあるのか。

何をすべきか明確になっているのか。

実際のパフォーマンスは測定されているのか。

必要なフィードバックは得られているのか。

望ましい行動を続けることで、どのような結果が生じているのか。

そして、その仕事を受け取る人にとって、

本当に価値のあるアウトプットが生まれているのか。


こうした人を取り巻くシステム全体を見ることが重要です。


この考え方は、リーダー育成だけに使えるものではありません。


離職が繰り返される組織

研修をしても行動が定着しない組織

一部の職員に仕事が集中している組織

過度な業務負担が続いている組織


さまざまな組織課題について、

「誰に問題があるのか」ではなく、

「どのような仕組みが、現在のパフォーマンスを生み出しているのか」

と問い直すことができます。


もちろん、すべての問題が組織環境だけによって

生じているわけではありません。

個人の知識やスキルへの支援が必要な場合もあります。


重要なのは、最初から「本人の問題」と決めつけず、

個人と、その人が働いているシステムの両方を見ることです。


行動ソリューションズでは、

応用行動分析学(ABA)と

組織行動マネジメント(OBM)の知見を活用し、

個人の努力だけに頼るのではなく、

人が望ましいパフォーマンスを発揮し、

それを続けられる組織の仕組みづくりを支援しています。


人を変えようとする前に、人を取り巻く環境を見る。


優れた人材に頑張り続けてもらう組織ではなく、

優れたパフォーマンスが生まれ続ける仕組みをつくる。


それが、持続的な組織改善につながると考えています。

 
 
 

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