「もっと質問してほしい」だけでは変わらない ― ABA・OBMから考える取締役会の行動デザイン ―
- 冨樫 耕平
- 18 時間前
- 読了時間: 4分

取締役会では、本当に十分な質問が行われているでしょうか。
先日、ある経営者の方から、
「取締役会では前提を疑う質問が少ない」という興味深いお話を伺いました。
例えば、
本当にこのプロジェクトを承認すべきなのか。
他にもっと良い選択肢はないのか。
想定されるリスクは十分に議論されたのか。
このような質問は、企業にとって重要な意思決定を行ううえで欠かせません。
しかし、実際には十分に行われないことがあるそうです。
なぜでしょうか。
その背景には、「質問しない方が得をする」という行動の結果が
存在している可能性があります。
例えば、
質問しなければ会議が早く終わる
他の役員と対立せずに済む
「細かい」「面倒だ」と思われることを避けられる
このような結果が繰り返されると、
「質問しない」という行動が維持されやすくなります。
一方で、質問をすることで、
他の役員も同じ疑問を抱いていたことが明らかになったり、
多様な視点から議論が深まったりすることで、
より良い意思決定につながる可能性があります。
では、取締役会で質問する文化を育てるには、
どのような工夫ができるのでしょうか。
ABA(応用行動分析学)や
OBM(組織行動マネジメント)の視点から考えてみます。
まず、人の行動の多くは、
その行動の結果によって大きく影響を受けます。
そのため、このような場面で
自然に存在する行動の結果が「質問する」という行動を増やしていないのであれば、
行動の結果を意図的に設計することが重要になります。
多くの組織では、まず、
「取締役会ではもっと質問しましょう」
というルールを伝えることがあります。
もちろん、このようなルールを共有することは大切です。
しかし、それだけでは
質問が一時的に増えたとしても、長続きしない可能性があります。
なぜなら、質問をした後に生じる結果が変わっていないからです。
質問をすると、
会議が長くなる
提案した役員から否定的に受け取られるかもしれない
他の役員から「面倒な質問をする人」と思われるかもしれない
こうした結果が続く限り、
「質問する」という行動は定着しにくいでしょう。
行動を持続的に変えるためには、
ルールだけでなく、行動の結果もあわせて変える必要があります。
では、どのような結果を用意すればよいのでしょうか。
答えは組織や状況によって異なります。
例えば、
議長や影響力のある役員が、良い質問に対して感謝や称賛を伝える
「その質問は、○○と関連があり、重要ですね」等と具体的にフィードバックする
質問によって意思決定の質が高まった事例を記録し、共有する
各役員の評価を、売上の向上など長期的な成果だけでなく、質の高い質問や建設的な意見の提示など、その成果につながる可能性が高い行動も含めて行う
このような経験が積み重なることで、
「質問することには価値がある」という行動の結果が生まれます。
さらに、質問の回数や質を記録し、
フィードバックすることも有効かもしれません。
もちろん、行動の結果だけでなく、
行動が起こる前の環境を整えることも重要です。
例えば、
質問がしやすい、整理された資料を事前に共有する
十分な検討時間を確保する
「質問や懸念点を出す時間」を議題に組み込む
議長が積極的に異なる意見を求める
「一人最低1つは質問する」など、質問に関する具体的な期待を事前に共有する
こうした工夫によって、
質問しやすい環境をつくることができます。
「もっと質問してほしい」と伝えるだけでは、
人の行動はなかなか変わりません。
行動が起こる前の環境と、
行動の後に生じる結果の両方を科学的にデザインすることで、
質問する文化は少しずつ育っていきます。
ABAやOBMは、このような行動の仕組みを科学的に理解し、
個人だけでなく組織全体のパフォーマンス向上を支援します。
行動ソリューションズでは、こうした行動科学の知見を活用し、
人と組織がより良い意思決定を行い、
その可能性を最大限に発揮できる環境づくりをご支援しています。