現場を歩くだけでは、良いマネジメントにはならない― OBMから考える Management by Walking Around ―

組織の管理者にとって、
普段から従業員と関わり、コミュニケーションを取ることは重要です。
例えば、
朝礼で素晴らしいスピーチをした。
全職員にメールで指示を送った。
方針を会議で説明した。
それだけで、「管理者として十分な仕事をした」と考える人は、
あまりいないでしょう。
実際の仕事が行われている現場に足を運び、
そこで何が起きているのかを知ることも重要です。
私自身、カリフォルニア州の自閉症支援センターで
クリニカル・スーパーバイザーとして勤務していたときには、
毎日できる限り現場に足を運び、
チームメンバーが子どもたちへ支援を提供する様子を
直接観察していました。
そして、スタッフからの相談や疑問に答えたり、
実際のパフォーマンスを観察したうえで、
フィードバックを行ったりしていました。
「現場を歩く」というマネジメント(MBWA)
このように、管理者が自分のオフィスにとどまるのではなく、
現場へ足を運び、そこで働く人たちと
形式ばらずに関わるという考え方は、新しいものではありません。
例えば、ユナイテッド航空のCEOを務めたEdward Carlson は、
このような関わりを “visible management(目に見えるマネジメント)” や “Management by Walking About”(MBWA)と呼んでいたとされています
(なお、“walking about”とは、文字通り「歩き回る」という意味です)。
また、Hewlett-Packard(HP)のBill HewlettとDave Packardも、
現場を歩き、従業員と直接コミュニケーションを取るマネジメントを
実践していたことで知られています
その後、PetersとWatermanによる
『In Search of Excellence』などを通して、
MBWAは1980年代に広く知られるようになりました。
一見すると、とても合理的な方法に思えます。
管理者が現場へ行く。
従業員と話す。
実際に仕事を見る。
しかし、ここには重要な落とし穴があります。
ただ現場を歩き回れば、良いマネジメントができるわけではありません。
「現場を見ること」が逆効果になることもある
Daniels and Daniels(2006)は、
MBWAを表面的に模倣した結果、パフォーマンスを改善するどころか、
状況を悪化させてしまうケースがあったことを指摘しています。
その理由として、例えば、次のような問題を挙げています:
一つは、管理者自身が、その仕事で本来求められている
適切な方法や手続きを十分に理解していないことです。
もう一つは、現場を訪れる頻度が少ないため、
わずかな観察・データだけから
従業員のパフォーマンスについて結論を出してしまうことです。
これは非常に重要な指摘です。
例えば、管理者がたまたま現場へ行ったときに、
ある職員が、管理者の視点から見ると
「正しくない」と思われる行動をしていたとします。
その一場面だけを見て、
「この人は仕事ができていない」
「もっと責任感を持つべきだ」などと
判断してしまったらどうでしょうか。
その行動には、管理者が知らない理由があるかもしれません。
あるいは、そのやり方は、
その現場の状況や制約を踏まえると、
理にかなったものなのかもしれません。
現場を見ることと、
現場を正しく理解することは同じではないのです。
管理者は、まず現場から学ぶ必要がある
私がカリフォルニアで
スーパーバイザーとして仕事をしていたときにも、
まず、その現場について学ぶ必要がありました。
どのようなルールがあるのか。
どのようなポリシーや手続きがあるのか。
普段どのように仕事が行われているのか。
そして、その現場にはどのような文化があるのか。
こうしたことを十分に理解せずに、
管理者という立場だけを根拠に現場へ指示を出しても、
適切な判断ができるとは限りません。
フィードバックを行う場合も同じです。
可能な限り情報を集め、
状況を理解したうえで伝えるようにしていました。
そして、もう一つ重要なのが、
現場で働く人の話を聞くことです。
現場のことを一番知っているのは誰か
管理者には、組織全体を見るという重要な役割があります。
一方で、日々の仕事や、そこでサービスを受けている
顧客・利用者については、管理者よりも
現場のスタッフの方が詳しいことも少なくありません。
私が勤務していた支援現場でも、
子どもたちと日々直接関わっているスタッフだからこそ
持っている情報がありました。
だからこそ、管理者が現場へ行く目的は、
「問題を見つけて指摘すること」だけではありません。
観察する。
質問する。
話を聞く。
必要な情報を集める。
望ましいパフォーマンスを見つけたら
フィードバックを行い、それをさらに高める。
必要であれば、仕事を難しくしている環境や
仕組みについて一緒に考える。
MBWAを効果的なマネジメントにつなげるためには、
こうした関わりが欠かせません。
「見える管理者」から「理解する管理者」へ
現場へ足を運ぶことは重要です。
しかし、
「現場にいること」と、
「現場を理解していること」は違います。
管理者が現場について十分な知識を持たず、
たまたま目にした一場面だけから評価や指摘をすれば、
従業員にとって「管理者が来る=何かを指摘される」という
関係をつくってしまうことさえあります(関連ブログ記事)。
重要なのは、歩き回ることそのものではありません。
現場で実際に何が起きているのかを観察する。
そこで働く人の話を聞き、現場から学ぶ。
そして、十分な情報に基づいて、
従業員のよいところや望ましい行動を見つけ、それをさらに引き出す。
必要であれば、仕事を難しくしている
環境や仕組みについても一緒に考える。
そのような関わりこそが、
管理者が現場へ足を運ぶ大きな意味ではないでしょうか。
組織行動マネジメント(OBM)は、
人のパフォーマンスを印象や性格だけで判断するのではなく、
観察可能な行動と、それを取り巻く環境から理解し改善しようとします。
行動ソリューションズでも、管理者が単に「現場を見る」のではなく、
現場をより正確に理解し、そこで働く人の強みや望ましい行動を引き出し、
パフォーマンスの改善につなげられる仕組みづくりを支援しています。




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